2025/05/23 15:18
この事件は、2024年8月に中国メディアや日本の主要メディア(読売新聞、朝日新聞、産経新聞など)で報じられた、中国山西省太原市の医療関連企業「山西奥瑞生物材料」が関与した大規模な遺体不正取引事件ですが、今SNS上で再び話題となっていますので、取り上げたいと思います。
(1)背景
医療用製品の製造販売を手がける企業(特に骨移植に使用する「移植材」を製造)の山西奥瑞生物材料有限公司(以下、山西奥瑞)が、2015年1月から2023年7月までの約8年半にわたり、4000体以上の遺体を違法に入手し、骨を加工して移植用として販売するという違法行為が行われていました。警察が押収した骨は18トン、完成品3万5077件に及び、同社の営業収入は8年半で3.8億元(約78億円)に達しました。
(2)違法行為の手法
1. 遺体の入手経路
<火葬場>
山西奥瑞の社長(容疑者の一人)は、四川省、貴州省、雲南省などの4つの葬儀場の経営権を取得し、火葬場の作業員に遺体を盗み出させました。遺体は1体あたり900人民元(約1.8万円)から2万2000人民元(約45万円)で取引されていました。
<病院>
山東省青島市の大学付属病院の医師が10体余りの遺体を1万~2万2000人民元で同社に売却。広西チワン族自治区桂林市の医科大学も身元不明の遺体など約300体を販売していました。
2. 遺体の処理
遺体は火葬場や同社内で解体され、骨を加工して移植用材料として病院に販売されました。原料の出所を隠すため、遺族の署名や寄贈書類を偽造するなどの手口が使われました。
この事件は単発的な行為ではなく、葬儀場、病院、医療関係者と結託した組織的なビジネスモデルとして確立されていました。
東京23区内の火葬場の約66%(町屋斎場、落合斎場、堀ノ内斎場、代々幡斎場、桐ヶ谷斎場、四ツ木斎場斎場)を占める「東京博善社」が中国資本に買収(正しくは”影響下”にある)されていることが一部で話題になり(「外国資本(外資)が運営する火葬場があることご存知でしたか?」を参照)、X上で「東京でも同様の事件が起こるのでは」との懸念から、この事件が再び話題となったと考えられます。
日本において、遺体を無断で解体し、骨を移植用に利用する行為は、複数の刑法や関連法規に違反する重大な犯罪行為とみなされます。以下に、該当する可能性のある罪状とその概要を説明します。
1. 死体損壊罪(刑法第190条)
遺体を損壊、遺棄、または冒涜する行為は死体損壊罪に該当します(3年以下の懲役)。遺体を勝手に解剖し、骨を取り出す行為は、遺体の損壊に該当します。
2. 死体解剖保存法違反
日本では、遺体の解剖や臓器・組織の利用は「死体解剖保存法」や「臓器の移植に関する法律」によって厳格に規制されています。医療目的の解剖や臓器移植には、遺族の同意や法的手続きが必要です。無断で骨を移植用に利用することは、これらの法律に違反します(1年以下の懲役または100万円以下の罰金[死体解剖保存法第12条など])。
3. 臓器の移植に関する法律違反
臓器や組織(骨を含む)の移植は、厳格な同意手続きと医療機関の認可が必要です。無断で骨を移植用に利用することは、同法に違反します(違反の内容によっては、7年以下の懲役または200万円以下の罰金[臓器移植法第12条など])。
4. 窃盗罪(刑法第235条)または詐欺罪(刑法第246条)
遺体やその一部(骨など)を無断で持ち去る行為は、窃盗罪に該当する可能性があります。また、移植用として偽って取得した場合、詐欺罪が成立する可能性もあります(窃盗罪は7年以下の懲役、詐欺罪も7年以下の懲役)。
5. その他の倫理的・社会的責任
医療機関や関係者が関与した場合、医師法や医療法に基づく免許取り消しや行政処分が科される可能性があります。
遺族の精神的苦痛に対する民事上の損害賠償責任も発生する可能性が高いです。
6. 補足
<具体的な罪の適用>
行為の詳細(例: 遺体の入手経緯、解体の目的、骨の利用方法)によって、適用される罪状や刑罰の重さが変わります。複数の罪が併合される場合もあります。
<国際的な観点>
骨を海外で移植用に利用する場合、国際的な臓器取引規制(例: WHOのガイドラインや日本の関連法)に抵触する可能性があります。
遺体を無断で解剖し、骨を移植用に利用した場合、死体損壊罪、死体解剖保存法違反、臓器移植法違反、場合によっては窃盗罪や詐欺罪に問われる可能性があります。刑罰としては、懲役刑(最大7年)や罰金が科される可能性があり、行為の悪質性によっては複数の罪で起訴されることも考えられます。
日本の火葬場では遺族が骨上げを行う慣習があり、遺体の不正持ち出しは現実的に困難とされていますが、おそらく問題はそこではなく、骨上げに遺族が立ち会うことのない、引き取り手のない無縁遺骨(無縁仏)の場合にあると考えます。現在この数は増えていて、社会問題となっています(「ご遺骨を捨てるのは犯罪です!」を参照)。
ゆえに日本でも十分に同じような事件が起こる可能性が考えられます。
病院や火葬場から遺体を勝手に解体し、取り出した骨を移植用に利用するような事件を未然に防ぐためには、以下のような多角的な対策が考えられそうです。これらの対策は、法制度、管理体制、技術的対応、社会的意識の向上を組み合わせたものです。現時点で考えられるものを可能な限り列挙してみました。
1. 法制度の強化と厳格な運用
<法律の厳格化>
死体解剖保存法や臓器移植法を見直し、遺体の無断解体や組織の不正利用に対する罰則を強化します。違反行為への抑止力を高めるため、罰金や懲役を重く設定することが効果的です。
<出所確認の義務化>
移植用骨や組織の利用には、明確な出所証明を必須とし、違法な手段で入手された材料の使用を禁止します。これにより、合法的なルート以外での流通を防ぎます。
<身元不明遺体の管理>
行旅死亡人法に基づく身元不明や遺族不在の遺体について、自治体が処理プロセスを厳格に管理し、不正利用の余地をなくします。
2. 医療機関・火葬場での管理体制の強化
<遺体管理の徹底>
病院や火葬場では、遺体の入出庫記録を詳細に残し、移動や処理のたびに複数人による確認を義務付けます。定期的な内部監査も実施し、不正を早期発見します。
<監視カメラの導入>
遺体安置所や火葬場の作業エリア、また遺体搬送中の車中に監視カメラを設置し、映像を一定期間保存します。これにより、不正行為の抑止と証拠確保が可能になります。
<職員教育の充実>
医療従事者や火葬場職員に対し、遺体の尊厳を守るための倫理教育を定期的に行い、違法行為への意識を高めます。
3. 移植用材料の追跡システムの構築
<ドナー同意の透明化>
移植用骨や組織の提供には、ドナーの明確な同意を必要とし、その記録をデジタル化して改ざんを防ぎます。
<トレーサビリティの確保>
採取から移植まで、骨や組織の移動を追跡できるシステムを導入します。例えば、バーコードやRFIDタグを使用し、どの遺体から採取されたかを常に把握できるようにします。
<医療機関への監査>
移植手術を行う施設に対し、材料の出所確認を義務付け、定期的な監査で法令遵守をチェックします。
4. 自治体・警察との連携
<遺体処理の監視>
自治体が管理する無縁遺体や身元不明遺体の処理を透明化し、警察や監査機関が定期的に確認を行います。
<情報共有の仕組み>
病院、火葬場、警察、自治体間で遺体の管理情報をリアルタイムに共有するシステムを構築し、不審な動きを即座に検知します。
<通報窓口の設置>
不正行為を目撃した職員が匿名で通報できるホットラインを設け、内部告発を促進します。
5. 社会全体での意識向上
<教育と啓発>
学校教育や公共キャンペーンを通じて、遺体や遺骨の尊厳を守ることの重要性を広めます。これにより、社会的な監視の目が強化されます。
<メディアの活用>
医療倫理や遺体管理の問題をメディアが積極的に取り上げ、不正行為に対する社会的圧力を高めます。
<市民参加>
地域住民が火葬場や医療機関の運営に意見を反映できる機会を設け、透明性を確保します。
6. 国際的な対策
<臓器取引の規制>
WHOなどの国際機関と協力し、違法な臓器・組織取引を防ぐ枠組みを強化します。
<外国資本の監視>
火葬場や医療機関に外国資本が関与する場合、その運営の透明性と法令遵守を厳しくチェックします。
これらの対策を総合的に実施することで、遺体の不正解体や骨の移植利用を未然に防ぐことが可能です。法制度の強化と管理体制の厳格化を基盤に、技術的な追跡システムや社会的な意識向上を組み合わせることで、遺体と遺骨の尊厳を守りつつ、違法行為を効果的に抑止できます。
取り急ぎ、費用対効果も勘案した上で、「法律の厳格化」「監視カメラの導入(※1)」「遺体処理の監視(※2)」だけでも実施することで、かなりの確率で今回のような事件を未然に防ぐことが可能なように思います。
(※1)遺体安置所、火葬場の作業エリア、遺体搬送中の車中
(※2)無縁遺体や身元不明遺体の火葬時に警察や自治体の立ち会いを必須とする
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